登り終えた君は、疲労に顔をゆがめながら笑みを漏らす。
この先どんな危険に遭遇しても、とりあえず登って逃げるという選択肢ができた。
君は十字架にかけられる仕打ちを受けたにも関わらず、水を見つけて飲むことができた。
追放の地での生存という戦いはこれからも続くが、君はその初戦に勝利したのだ。
自分が何を食べたのかよく覚えていない。
食べたものが何であれ、腹の痛みが治まったことが重要だ。今のところは。
空腹にまずい物なしとはよく言ったものだ。
痛みで意識がもうろうとしている。
ひどい状態で過ごしたあの数日間以降、ずっと頭がぼうっとしているのだ。
自己防衛によって感覚は鈍くなっていた。睡眠が必要だ。
出来事を把握し、今後に向けて状況を整理できるだろう。
横になれる安全な場所を見つける必要がある。
粗末な衣服では牙や爪から身を守ることはできないが、照りつける日差しを和らげることはできる。
君が作った衣服は肌触りが悪く、擦れるなど決して快適ではないが、多少なりとも生きるための助けになることは間違いない。
体中が痛むが、だんだん生気が戻ってきた。
一歩踏み出すごとに痛みに苦しめられるが、それでも君は生きている。生きてここにいる。
だんだん物事を考えられるようになり、君の心に怒りが燃え上がり始める。
君は故郷から連れ去られ、今までに見たこともない土地で十字架にかけられ放置されたのだ。
君はすべてを奪われ、十字架の上でハゲタカの餌になるところだったのだ。
そして突然、何かを殺したいという気持ちが湧き起こった。
君はひどく荒れた自分の手を見ながら考えている。
今後も草を引き抜き、石を集め続けるのなら、もっと効率のいいやり方が必要だ。
それに、この土地にどんな生き物がいるのかまだよく分かっていないことも心配だ。
手に道具の重みが感じられれば気が楽になるだろう。
これを書いた者がいつここを去ったのかはどうでもいい。
以前にもこの場所を通った人がいて、そして願わくば、いつかまた誰かが通るかもしれないということが分かっただけでも十分だ。
君は追放者だが、独りではないのだ。
何発かの蹴りを繰り出した君は、足が空気を切り裂き、足に体重が乗る感覚に満足する。
身体を回転させて着地した君は、痛みにもかかわらず笑っている。良い気分だ。
この動きは非常に役に立つだろう。