戦場で敵を倒し‘生き残るための鉄則をひとつだけ挙げるならば、それは「自分は攻め、相手には攻めさせないこと」 だ。
局所的な戦いにおいては「先手必勝」と言い換えても良いだろう。
どんなに屈強な兵であろうとも、敵の攻撃を受ければひるみ、体勢を崩す。
そうなれば当然、攻撃の手もやむことになる。
機先を制する―撃を当てることがみずからの生存につながるのだ。
それゆえ熟練した戦士は、相手より先に動き出せる状況を好む。
同時に、体勢を崩して敵におくれをとらないための方法を常に模索している。
多くを考えるより先に、 まずは「敵より先にみずからの攻撃を当てるにはどうすればよいか」を意識するといい。
むやみに武器を振り回すのをやめ、目的を持って戦うことが成長への第―歩となる。
焦らず、ゆっくりと成長を楽しむのだ。 それが君たちをいつか歴戦の勇士へと育ててくれることだろう。
武器は長き戦いの歴史において欠かすことの出来ない存在だ。
世界には創意工夫を凝らした様々な武器が生まれてきたが、やはり注目すぺきは「敵より先にみずからの攻撃を当てる」ための要素だ。
中でも重要なのは武器の大きさ・長さである。
敵が間合いに入る前に斬り捨て、なぎ倒してしまえばよいと考える者は、より大きな武器を振り回すだろう。
しかし、大きな武器はその重量ゆえ技を繰り出すのに時間を要する。
一方、小さく軽い武器であれば、接近さえしてしまえば、瞬時に敵を切り裂くことができるだろう。
武器を選ぶのに絶対の正解はない。
どちらの発想も状況によっては正解と言えるからだ。
大切なことはみずからの武器の得意な間合いを知ることだ。
大きく長い武器を持つものは離れた間合いから敵を攻撃せよ。
短く軽い武器を持つものは攻撃をかいくぐり、接近戦を挑むのがよい。
己を知り、敵を知り、今の自分ができることを最良の形で実行する……限界を超えるために、これ以上の近道はないのだ。
ひとたび戦場に出たならば、生き残るためにあらゆる手段を尽くすことだ。
たがいに命を賭した場においては 絶対的な「正しさ」や「卑怯」といった考えは通用しない。
己の正しさを示す手段があるとすれば、それはただひとつ、勝利だけである。
それゆえ、戦場にあるものすべてに注意を払い、使えるものはすべて使うことだ。
ただ体カを奪い去るだけが勝利の条件ではない。
そこが水際ならば、敵の足を払って突き落せばよい。
みずからが壁に追い詰められたならば横へと動き、血気にはやる相手を逆に壁に叩きつけてやるがよかろう。
互いの立ち位置と心の動きには常に注意を払い、地形を活かして戦うならば、己よりも格上の相手を倒すことも可能だろう。
そのためには「視野を広く持ち、自分ではなく相手を見ること」が肝要だ。
敵の体力を奪い、勝利を得るには、薄皮だけを斬るような手ぬるい攻撃では足りるまい。
渾身の力を込めた全霊の攻撃を叩き込んでこそ、やっと敵を倒すことができるのだ。
だが、戦いを決する―撃を放つのは容易いことではない。
まずみずからの流派の技を深く知ることだ。
素早く攻撃する牽制用の技、当たるまでに時間はかかるが致命的な破壊力の技など、 威力や早さがことなる技があるだろう。
それぞれの性質を理解し、使いどころを把握することが肝要だ。
己の技を把握したならば、次に注目するべきは「攻撃を当てた際に防御姿勢をとれなくなるような技」だ。
敵を宙に弾き飛ばしたり、庫れが走って動けなくなるような攻撃を当てたならば、その時こそ致命の―撃を放つ絶好の機会だ。
無防備となった相手に追撃を叩き込み、勝負を決めよ。
それは戦場で生き残るための重要な武器になるだろう。
本命となる一打を当てようにも、やみくもな攻撃は死を招く。
あっさりと防がれ、かわされ、隙をさらすことになるだろう。
以下の5箇条を意識するといいだろう。
1、敵の行動を制限し、攻めやすい状況を作ることだ。
素早さを第一に考案された牽制攻撃で相手をひるませよ。
2、直線的な攻撃は、左右にかわされれば大きな隙をさらす。
まずは武器を横に薙き私い、敵の足を止めてから狙うのだ。
3、どんな攻撃も届かなければ意味がない。
短い攻撃は間合いを離すことでかわされてしまう。
踏み込んで繰り出す突きなど、遠くまで届く技を駆使し、敵が後方へ下がることを阻止するのだ。
4、地面に倒れた敵を攻撃するのはたやすい。
相手を転ばせる攻撃を使い、寝かせたところにさらに攻めこむという流れを身に着けるのも勝利への近道だ.
5 破壊力の高い攻撃は、真正面から打つな。
敵の動きを制限し、敵を操り、そして生じた隙に致命的な一撃を加えよ。
それこそが熟練した戦士の戦い方というものだ。
敵が守りを固めたならば、それは攻撃を当てる好機が到来したということだ。
だが、何度攻撃を繰り出してもたやすく防がれ、逆にみずからの苦墳を招いてしまう……こんな経験があるのではないか?
そんな時は様々な攻撃を使い分けることで、相手の強固な守りを崩すための第―歩を踏み出せるはずだ。
正面から打つと見せかけ、足元を狙ってみよ。
打つ場所を変化させることで守りの手薄なところを突くことができるだろう。
相手が守りに固執するなら掴んで投げ飛ばしても良い。
武器は盾で防げても、組み伏せて急所を―突きすれば脆いものだ。
攻撃に変化を加えるには、拍子をずらすのも有効だ。
あえて一呼吸置いて攻撃するといった戦術は、戦慣れした剣士が良く使う手でもある。
防御を解き、攻めに転じた瞬間を一閃することで相手の動揺を誘うのだ。
戦場で最後まで生き残るはカの強き者にあらず。
変化に対応できる者だけが死線を乗り越え続けられる。
常に変化を心がけ、攻め手に磨きをかけてゆこうではないか。
敵に致命的な―撃を浴びせるには、カで守りを打ち崩す以外にも道がある。
熟練の戦士は、相手の心の守りを崩して攻撃を当てる。
そのひとつが「敵の攻撃を誘い、防いで反撃する」という方法だ。
例えば、わざと攻撃を防がせて隙を見せ、相手の大技を誘ってやるといい。
大振りな攻撃は、防御されれば隙をさらすものが多い。
首尾よく防げば隙を突くことができるだろう。
欲張って直線的な攻撃を出してくると読んだならば、左右に移動して回避し、こちらの大技を叩き込んでしまえ。
敵が好機と思う状況を、みずから作ってやることだ。
相手の欲望を見切れば、それはこちらの好機となる。
たとえわずかな隙であっても「事前に予測していれば、隙を突くことは可能」なのだ。
だが、一度心理戦を制したからといって油断してはならない。
戦いに熟練した者は、すべての行動――そう、読み負けたことすらも、次への布石としてゆくのだから。