双子の姉妹、澪と繭は、幼い頃の数年間を過ごした故郷にやって来た。 二人にとって秘密の場所だったこの沢は、夏休みが終わるとダムの底に沈んでしまう。 けだるい木漏れ日に光る水、しっとりと湿る森の空気。 あのころと何もかもが変わっていない。 ちょっと歩きづらそうにしている繭を見ながら、澪は心配そうに声を掛ける。 「足、大丈夫? 」 「ちょっとね…でも、平気」 一つの記憶。 いつもの澤で遊んでいた二人は、夕暮れの山道を急いでいる。 体の弱い繭は、澪の名を呼びながら懸命についてきている。 「早くしないと、おいて行くよー!」 足の遅い姉を半ばからかうように、ときおり繭のほうを振り向きながら走る澪。 短い悲鳴、何かが滑り落ちる音… 澪が振り返ると、夕暮れの山道には誰の姿もない。 「…おねえちゃん?」 道の脇の崖下をゆっくりと覗きこみながら鼓動は高まって行く。 そして、大きく見開かれる澪の目… "あのとき私がお姉ちゃんを待っていたら、今も一緒に走れたのに…" 回想にまどろむ澪が、ふと顔を上げると、繭の姿が消えている。 あたりを見まわす澪が見つけたのは、ぼんやりと光る紅い蝶を追って 森の奥に入っていく繭の姿だった。 蝶に導かれるように森の中を走る繭。その後姿が、白い着物の女性に重なっていく。 繭を追いかける澪は、いつのまにか霧にけぶる山道に一人立っていた。 風に乗って聞こえてくる、悲しげな歌声。木々の間から垣間見える、灯りの列。 澪は、その祭りの列が集まる場所へと、誘われるように歩み出す。 鬱蒼とした森がひらけると、あれほどいた人の気配はなく、 ただ一人、繭が立ちつくしているだけだった。 「…お姉ちゃん?」 ゆっくりと振り返る繭。紅い蝶たちが一斉に舞い立つ。 「地図から…消えた村…」 二人の前には、霧に包まれた薄暗い村が広がっていた… IP:123.225.248.64 TIME:"2012-06-25 (月) 21:01:33" REFERER:"http://h1g.jp/zero2/index.php?cmd=edit&page=%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B0&refer=MenuBar" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/536.5 (KHTML, like Gecko) Chrome/19.0.1084.56 Safari/536.5"